(1) 地区防災計画とは

・地区防災計画は、東日本大震災の経験を踏まえて平成25年に改正された災害対策基本法の第42条に定められた制度であり、地区の住民や事業者が市町村防災会議にその素案を提案することができる。この場合に過半数などの厳密な要件はない。
災害対策基本法(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S36/S36HO223.html)

・地区防災計画に定める事項は、特定されておらず、緊急避難場所の指定や避難行動要支援者の対応から災害発生時の住民と事業者の相互支援など地区の防災活動を広く対象としている。

・市町村防災会議は、地区防災計画を定める必要性を判断した時は、市町村地域防災計画にその地区防災計画を定めなければならない。

・市町村地域防災計画に地区防災計画が定められた場合は、地区の住民や事業者はその計画に従って防災活動をするよう努力義務が課せられる。

(参考サイト)
・内閣府:みんなでつくる地区防災計画(地区防災計画ガイドラインとモデル地区の取組)→ http://www.bousai.go.jp/kyoiku/chikubousai/
・都道府県地域防災計画の総覧 → http://www.db.fdma.go.jp/bousaikeikaku/
・地区防災計画学会(地区防災計画に係る普及啓発、調査研究等) → http://www.gakkai.chiku-bousai.jp/

・住民がつくる「地区防災計画」は、地方自治体が制定する「地域防災計画」との整合性が求められる。都道府県の地域防災計画については、「総務省消防庁:地域防災計画データベース」(都道府県による地域防災計画の総覧)
www.db.fdma.go.jp/bousaikeikaku/
・市町村など各基礎自治体での「地域防災計画」については個別にアクセスする。

(2)地区防災計画に関連する法制度

・東日本大震災の教訓を踏まえ、平成24年改正災害対策基本法では、主に以下の4点が定められた。
① 大規模広域な災害に対する即応力の強化
② 大規模広域な災害時における被災者対応の改善
③ 教訓伝承、防災教育の強化などによる防災意識の向上
④ 地域防災計画の策定等への多様な主体の参画

・続く平成25年改正では、住民等の円滑かつ安全な避難の確保が強調され、避難所と緊急避難場所を区別すること、要援護者名簿や防災マップを作成することなどが定められた。また、平素からの防災への取組を強化するため、「減災」の考え方を基本理念とし、地区防災計画の提案がなされた。平成25年改正に伴う緊急避難場所の指定や住民等への周知のための措置、避難行動要支援者名簿作成の義務付けは、地区防災計画制度とともに、逃げ地図づくりと極めて関連深い事項である。

・緊急避難場所の指定(災害対策基本法第49条の4)「市町村長は、洪水、津波などの異常な現象ごとに、緊急時に一時的に避難する緊急避難所を指定しなければならない」

・避難行動要支援者の名簿の作成及び事前の開示(同法第49条の10、第49条の11)「市町村長は、避難において支援が必要な者の名簿を、個人情報保護条例の規定にかかわらず、作成しなければならない。本人の同意を事前に得ることを前提として、民生委員など避難行動の支援の実施に係わる関係者(その範囲は市町村地域防災計画に定めるものとする)に対して、名簿情報を提供するものとする」

(3) 逃げ地図作成から地区防災計画の立案

・内閣府災害対策法制企画室長として地区防災計画制度等の災害対策基本法改正の制度設計を担当した佐々木晶二氏は、著書の「政策課題別都市計画制度 徹底活用法」(ぎょうせい)の中で、逃げ地図の作成から地区防災計画の立案の流れを次のように説明している。
① 自治会長などを通して、住民や学生に呼びかけて、逃げ地図づくりの地区協議会を開催して、逃げ地図を作成する。
② 逃げ地図の避難目標地点付近に、すでに指定された緊急避難場所があればそれを記載し、まだ指定されていなければ、地区住民で話し合って住民が必要と考える指定緊急避難場所を記載する。
③ 避難行動要支援者名簿が既に提供されている場合には、その要支援者ごとに具体的な支援の方法(例えば、自動車で例外的に避難することを認める)を地図にポイントを落として記載する。当該名簿が提供されていない場合には、提供された段階で記載を追加する。
④ 観光地などにおいては、旅館など事業者に対して、観光客に対する逃げ地図の周知を努めることを記載する。
⑤ 以上の内容を記載したものを、当該地区協議会で了解した上で、地区協議会名、自治会長名など、そのまとまった地区を表現する代表者名で、○○地区防災計画の素案として、市町村長に提出する。
⑥ 市町村長は、提案された地区防災計画の素案の内容のうち、緊急避難場所の指定、避難路の整備など、市町村の対応状況を確認し、市町村としての実現可能性をきちんと踏まえた上で、市町村防災会議において、○○地区防災計画として、市町村地域防災計画の一部に定めることとする。

・つまり、その地区の自治会などの主催で開催した逃げ地図づくりワークショップを地区協議会として位置付け、逃げ地図に記載された緊急避難場所の指定など住民らが必要とする避難計画の内容をまとめれば、地区防災計画の素案として市町村に提出して市町村地域防災計画の一部に定めることができる。

・地区防災計画の素案づくりにおいては、緊急避難場所の指定など住民らが必要とする避難計画の検討とその内容についての合意形成が重要になることから、逃げ地図づくりワークショップを少なくとも2回開催する必要がある。

逃げ地図作成から地区防災計画立案のフロー図
佐々木昌二「政策課題別都市計画制度 徹底活用法」(きょうせい、2015年)をもとに作成

 

●参考事例

秩父市久那地区では、久那地区防災計画「土砂災害編」(案)を立案し、①平時から進めておくべきこと、②避難準備情報発令時の行動、③避難勧告及び避難指示発令時の行動、④避難者及び避難所の対応の4章で構成し、このうち①〜③は、各町会がとるべき対応と住民がとるべき対応を分けて、具体的な行動規範を示した。作成した逃げ地図については、各町会は平時から広く住民に周知し、住民は指定避難場所を確認しておくこと、避難準備情報等の発令時には逃げ地図を活用して町会指定避難場所に向かうことを明文化した。

秩父市上白久地区では、久那地区の取組を踏まえて、避難目標地点や避難障害地点など与条件の異なる5種類の土砂災害からの逃げ地図を作成した。その成果と課題を整理した上で、地区防災計画の素案づくりを念頭において、大雨時の緊急避難場所の指定を見直すとともに、大雨警報または避難準備・高齢者等避難開始、土砂災害警戒の発令時の避難計画案を作成した。上白久地区防災計画「土砂災害編」(案)は、地区全世帯に全戸配布した逃げ地図を使って実施する避難訓練を経て立案を検討することにした。

(4)逃げ地図づくりを通した計画の見直し

・逃げ地図は、避難目標地点や避難障害地点などの与条件を変えると、避難経路や避難時間の異なる地図ができあがることから、状況の変化に応じた避難場所や避難経路などの避難リスクに関する点検・評価に有効なツールである。

・地区防災計画などに基づく新たな緊急避難場所の指定や避難路の整備などにより、避難リスクが変わることから、地区防災計画は、逃げ地図の作成を通して、一定期間ごとに計画を見直すことが重要である。